平和とは「戦争の不在」ではなく「考えないで暮らせる領域」。その定義が訂正可能性に晒され続ける、という不安定さがずっと頭に残る。
得たもの
一番大きいのは「共生の平和/隔離の平和」という軸。多民族の共生を理想化する語りの背後に、隔離(境界線の固定、ときに民族浄化)によって成立した「秩序としての平和」がある。その上から普遍を語るリベラル(=世界、という暗黙の前提)は、自分が立っている場所のコストにどこまで自覚的だったのか、という問いを持って読むと、国際政治のニュースの見え方が変わる。
もう一つは、哲学と自分の距離について。分析哲学寄りの感覚だと哲学は人生から遠いものだと思っていたけれど、時代の潮流とその哲学的な解釈という「全体」を一度通ったあとに自分を当てはめると、ちゃんと自分に返ってくる。安い人生論的な哲学(『動物化するポストモダン』以降の東浩紀を追ってきた身としてはファスト教養的なもの)が苦手だったのは、全体を通らずに表面だけで一周回ってこないからだ、と言語化できた。
どんな人に
「令和人文主義」や東浩紀の現在地が気になる人。ウクライナやガザのニュースを「加害/被害」の二分法だけで処理することに座りの悪さを感じている人。実地を歩いた紀行文なので、戦争博物館やダークツーリズムの記憶がある人は、それと重ねて読める。
いつ読むか
『訂正可能性の哲学』あたりまでの東浩紀を通ってから読むと、20年以上同じ問いを彫り続けているのが見えて面白い。旅の途中や、旅から帰ってすぐの、まだ現地の空気が残っているうちに読むのも合う。
同じ著者の本
- 一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル
東 浩紀
★★★★★読了 2014.02
- 弱いつながり 検索ワードを探す旅 (幻冬舎文庫)

弱いつながり 検索ワードを探す旅 (幻冬舎文庫)
東 浩紀
★★★★☆読了 2026.07
- 訂正可能性の哲学

訂正可能性の哲学
東 浩紀
★★★★☆読了 2023.10
- ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ)

ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ)
東 浩紀
★★★☆☆読了 2022.01
- ゲンロン12 (ゲンロン 12)

ゲンロン12 (ゲンロン 12)
東 浩紀
★★★☆☆読了 2021.12
- 動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)

動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)
東 浩紀
★★★☆☆読了 2013.10
同じタグの本
- 最小の結婚

最小の結婚
Elizabeth Brake
政治哲学
★★★★★読了 2022.05
- 社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学

社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学
Jonathan Haidt
政治哲学
★★★★★読了 2020.11
- アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)

アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)
堂目 卓生
政治哲学
★★★★★読了 2013.10
- アフガニスタン奮闘記 国際協力の新たなかたち

アフガニスタン奮闘記 国際協力の新たなかたち
折笠 弘維
平和構築
★★★★★読了 2012.12
- 平和構築 アフガン、東ティモールの現場から (岩波新書 新赤版1190)

平和構築 アフガン、東ティモールの現場から (岩波新書 新赤版1190)
東 大作
平和構築
★★★★★読了 2012.02
- 〈概念工学〉宣言!

〈概念工学〉宣言!
戸田 山和久、唐沢 かおり
政治哲学
★★★★☆読了 2026.09
- スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険

スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険
谷川 嘉浩
政治哲学
★★★★☆読了 2026.01
- 技術の哲学 古代ギリシャから現代まで (講談社学術文庫)

技術の哲学 古代ギリシャから現代まで (講談社学術文庫)
村田 純一
政治哲学
★★★★☆読了 2025.07
- AIの政治哲学

AIの政治哲学
Mark Coeckelbergh、直江 清隆
政治哲学
★★★★☆読了 2024.12
- 訂正可能性の哲学

訂正可能性の哲学
東 浩紀
政治哲学
★★★★☆読了 2023.10
- 人種契約 (叢書・ウニベルシタス 1150)

人種契約 (叢書・ウニベルシタス 1150)
Charles W. Mills
政治哲学
★★★★☆読了 2023.02
- Democracy Rules
Democracy Rules
Jan-Werner Müller
政治哲学
★★★★☆読了 2022.10
ISBN 9784907188672
